アルベール・カミュ『異邦人』についての豆知識

 

 

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『異邦人』はフランスの作家アルベール・カミュによる1942年の小説である。カミュの思想である「不条理」と「実存主義」をテーマとした小説であるとみなされている(カミュ本人は自身の哲学が「実存主義」と呼ばれることには反発している)。

 

小説の主人公はムルソーという、物事に無関心なフランス系アルジェリア人。自分の母親の葬儀に参列し、その数日後、友人といざこざのあったアラブ人の男を殺してしまう。ムルソーは逮捕起訴され、死刑判決を受ける。

 

ストーリーはアラブ人殺害の前と後の2部に分かれており、ムルソー本人による独白で語られる。

 

1955年1月、カミュはこう記している。

 

『異邦人』の筋書きはずっと前に出来上がっていた。ポイントは、とても逆説的であるこを認めなくてはいけないのだが、「この社会に生きる限り、母親の葬儀で泣かない男は死刑判決を受けるリスクを負ってしまう」というものだった。つまるところ私の本の主人公は、社会のゲームに参加しないという、それだけの理由で非難されることになるのだ。

 

『異邦人』初版は4,400部で、出版後すぐにはベストセラーにはならなかった。しかし概して好評価で迎えられ、ジャン=ポール・サルトルによる「『異邦人』の解説」という記事が出版前日に発表されたこともその評価を高めたと考えられている。

 

出版以来、英語(4つの翻訳が出されている)を始め数多くの言語に翻訳されており、20世紀文学の古典のひとつとしてみなされている小説である。

 

フランスの新聞「ル・モンド」紙は20世紀の終わりを目前に控えた1999年、「Les cent livres du siècle」(今世紀の100冊)と題したブックランキングを発表した。これは1万7千人のフランス人による投票で決められたが、その1位にこの『異邦人』が選ばれている。

 

またこの小説は、1967年にはイタリアのルキノ・ヴィスコンティ監督により『Lo Straniero』として、2001年にはトルコのゼキ・デミルクブズ監督により『Yazgı』として、今まで2度映画化されている。

 

英語のタイトルは「The Outsider」 or 「The Stranger」?

フランスのガリマール社が1942年、原書(フランス語)の初版を出版し、それをイギリスの文学者スチュアート・ジルバートが1946年に英訳した。この英訳はその後30年以上にわたって英語版のスタンダード・バージョンとされていた。

 

ジルバートは原題「L’Étranger」を当初「The Stranger」としたが、出版社ハミッシュ・ハミルトンによって「The Outsider」へ変更された。このほうが「よりハッキリとし、ピッタリくる」ということ、またポーランドの作家Maria Kuncewiczowaの小説がやはり「The Stranger」というタイトルですでに出版されていたことが理由であった。

 

一方、アメリカでは出版社ノップフが同じくジルバートによる英訳の出版を当初の「The Stranger」として進めていた。その後イギリスからタイトル変更の連絡がきたが、すでに植字(印刷用に活字を並べる作業)が行われてしまっていたため、変更前のタイトル「The Stranger」のままで出版されることになった。

 

こういった経緯からイギリスでは『The Outsider』、アメリカでは『The Stranger』として出版されたのである。そして現在でも、それぞれがそのまま使われ続けている。

 

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異邦人 (新潮文庫)

(フランス語原書) 

L'Etranger (Collection Folio, 2)