『パディントン』原作者マイケル・ボンド 亡くなる半年前のインタビュー「いつも朝9時には机に向かっているよ」

 

 

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以下は2016年12月24日、イギリスの新聞「The Guardian」のウェブサイトに掲載されたマイケル・ボンドのインタビューである。

 

www.theguardian.com

 

パディントン』の原作者であるボンド氏は2017年6月27日に91歳で亡くなっているが、半年前のこの記事でも「毎日書いている」「朝の9時には机に向かっている」と語っている。

 

90歳になっても仕事への意欲が衰えなかった作家は、自身の執筆生活をどのように語っているのだろうか。

 

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この50年の間、私は週7日間、毎日書き続けてきた。クリスマスの日ですらそうだ。だが私はそんな生活を今でも楽しんでいるんだよ。この30年間ずっと同じ家に住み続け、同じ部屋で書き続けてきた。ロンドンに初めて来たとき、リトル・ヴェニス(ロンドン市内を流れる運河)でカナルボートに乗った。そのとき今私が住んでいる通りを通過して「ここに住めたらいいだろうな」と思ったのを覚えている。将来本当にここに住むとは夢にも思わなかったよ。

 

私の書斎には本が並び、濃い色の木製の机と庭に面した窓がある居心地のいい部屋だ。小さなクマのパディントンが机の上にいて、私を見張っているんだ。私はここに満足している。もっとも、表通りやカナルは交通量が多くて結構うるさいがね。

 

しかし執筆中に窓の外を眺め、人々の生活の様子を目にするのが好きだ。私は都会が好きで、人々を観察することからインスピレーションを得る。近所に散歩に出かければアイデアをたくさん持ち帰ってくる。私は物書きとしての仕事に適合してきたと思う。いつも会話の断片に耳を傾け、休暇中でもショッピング中でも、孫を見ているときでも本の題材になるアイデアを得ているんだ。

 

パディントンベアには私の父の要素がたくさん入っている。彼はとても丁寧な男で、帽子をかぶらずに外出することはなかった。レディに会ったときに帽子を持ち上げて挨拶できるからだ。子供の時に海岸に連れて行ってもらったとき、海の中に入っても彼は帽子をかぶったままだったんだ。

 

いつも朝9時には机に向かっている。ラップトップを使っているんだが、いつも紙の山に埋もれてしまっている。タイプライターも持っている。タイプライターだとどんどんと書けるので好きなんだ。自宅で仕事をすることで困ることのひとつは、やりやすいためについたくさん働いてしまうことだ。でも嫌なわけじゃない。あくまでそういうものなんだ。

 

紙にはいつも悩まされているよ。書き終わった物語や、未完成の物語が至るところに散らかっているんだ。あるページとか参考文献とか、何かを探しているときには見つけることができない。だからいつも困るんだ。平らな場所がもうなくなってしまった。本当に馬鹿げたことだがね。

 

それに本棚のスペースもなくなってきた。私は分厚い参考書をたくさん持っていて、新しい本を置く場所がもうないんだ。私は本が家具の一部になっているような家で育ったし、参考書が大好きなんだ。つい集めてしまうんだよ。ワインの図鑑、食べ物の図鑑、「パンプルムース氏」シリーズ(ボンドによるミステリー小説)のための本・・・すべて一度読むだけだ。今まで知りたいと思ったものの95%は私の書斎の中に置いてあるんだ。

 

30年前、執筆のためにパリのアパートに入り、しばらく素敵な時間を過ごした。あのときは誰も連絡をしてこないからとてもよかった。邪魔するものは何もなく、夕方になればおいしい食事を楽しめる。朝は早めに起きて、午前中はずっと執筆する。今はもう自宅以外の場所では書きたいと思わないが、自宅だといろいろ邪魔者が入るから決して理想的という訳でもないんだ。

 

一冊の本を書くのにどれくらい時間がかかるかって?...そんなこと分かるものか。私は速く書くほうだが、実際のところ今書いているページが満足いくのにならなければ次のページには進まない。何度見直しをするか分かったものじゃないよ。しかし私はそれを気にしていない、仕事をしっかりやる場合はこうなるんだ。

 

イラストレーターといっしょに仕事をするのはとても楽しい。「パディントン」シリーズを担当してくれるイラストレーターはアメリカに住んでいる。彼はとてもいい奴なんだ。私が何か満足いかない部分を見つけたときは、彼に電話するとすぐに変更してくれる。イラストレーターとは面白い関係を築けるんだ。編集者は自分抜きで話をされるのを好まないからね。まるで編集者の裏をかいて仕事をしている感じだよ。

 

長年書いてきたが、執筆のスピードが速くなったとは思わない。しかしスキルは高くなってきたと思う。「パディントン」を書くことは今でも簡単にできる。私のエージェントに「本が出来上がりましたよ」と言われるまでは、ほかの本に取り掛からず、頭の体操を続けてアイデアを書き続ける。私はそれがすごく楽しいんだ。