ジャック・ケルアック本人がデザインした『路上』の表紙

 

 

 

数あるジャック・ケルアックの伝記の中でも、彼の絵描きとしての才能について言及したものはほとんどない。

 

しかし、執筆活動を続ける傍ら、ケルアックはスケッチをし絵を描き続けており、著作とともに数多くの絵も描き残しているのである。

 

2017年末からイタリア・ミラノ近郊のガララーテにある美術館「Museo MAGA」で、80点を超える数のケルアックの絵画が集められ、特別展が開かれた。

 

また今まで人前に出たことがない作品も含めた画集も出版されている。

 

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【ケルアックの絵画】

画集はケルアックが知ってる人や憧れていた人の数々の肖像画で始まる。

 

これらの肖像画は、カトリックとして育てられたにもかかわらず、のちに仏教にのめり込んでいったケルアックの複雑な精神性も表している。

 

『路上』出版のあとに描かれた肖像画のひとつに、ジョヴァンニ・バッティスタ・モンティーニという人物を描いたものがある。

 

後のローマ教皇パウロ6世である。

 

ケルアックはこの人物に会ったことはなかったが、「タイム」誌に掲載されていた写真をもとに描いた。

 

ケルアックの文学作品は彼の知っている実在の人物や出来事をフィクション化したものであるが、絵画もまた同様のアプローチで描かれていた。

 

この頃に描かれた別の絵画では、ある女性が青い服を着て黒の帽子をかぶり、壁に寄りかかって煙草をくゆらせている様子を描いている。

 

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この人物はケルアックの小説『Visions of Cody』の登場人物の一人を描いたものだとされている。

 

ケルアックは1952年、サンフランシスコの大通りで映画撮影中だった女優ジョーン・クロフォードを見かけたことがあり、そのときのイメージがベースとなって作られたキャラクターであった。

 

【『路上』表紙をケルアック本人がデザイン】

ケルアック最初の小説『The Town and The City』は1950年に出版された。

 

しかし彼は、出版者が用意したこの本の表紙が気に入らなかった。

 

この小説は『路上』とは異なり、一家族を題材とした長編小説で、ケルアックが尊敬していた作家のトーマス・ウルフ流に書かれたものだった。

 

この小説の表紙には田園風景を描いた優しいタッチの挿絵が付けられており、ケルアックはこれが好きになれなかったのである。

 

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そこで次の小説『路上』では、彼自身が表紙をデザインした。

 

鉛筆でスケッチされたその絵は、ケルアック本人と思われる人物が永遠に続く道を歩く姿が描かれており、「On The Road」の文字がその道に沿って遠近法により書かれているものだった。

 

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ケルアックはこのスケッチを出版社に送る際、タイプライターで書いた添え書きをつけている。

 

そこには「出版用の表紙の私のアイデアをお送りします。『The Town and the City』の表紙は題名や後袖の写真と同様、ダサいやつでした」と書かれている。

 

このスケッチを受け取った出版社は本にも表紙にも満足せず出版には至らなかったが、ほどなくケルアックは『路上』を引き受けてくれる出版社を見つけることが出来た。

 

そしてこの作品が彼を20世紀後半の最も重要な作家の一人に押し上げることになるのである。

 

 

 

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