ラブレー『ガルガンチュアとパンタグリュエル』の英訳がギュスターヴ・ドレのイラスト入りで出版
ギュスターヴ・ドレのイラストが施されたフランソワ・ラブレー著『ガルガンチュアとパンタグリュエルの物語』の英訳版が、500冊限定で出版される。
「第一之書」から「第五之書」にいたるすべてが全二巻におさめられるもので、英訳版がドレのイラストとともに出版されるのは今回が初めて。
巨人ガルガンチュアとその息子パンタグリュエルの物語は16世紀フランスの最も優れた散文のひとつであると言われている。
ソルボンヌ大学からは下品な作品として批判されながらも、国王や枢機卿らの蔵書とされていた。
ルネサンス時代最大のユマニスト(人文主義者)の一人であり、エラスムスの影響を受けているラブレーは、美辞麗句を多用することでこの作品を深みと複雑さのある喜劇に仕上げた。
聖書の中の話や社会制度、騎士道などを滑稽に描き、卑猥なユーモアで飾り立てて書き上げられている。
このラブレーの傑作に合わせて描かれたギュスターヴ・ドレのイラストは、1854年に発表されるが、さらに20年後の1873年には木版画の新ヴァージョンが発表されている。
しかし英語訳とともにその全体を見ることができるのは今回初めてとなる。
英訳は英オックスフォード大学の故マイケル・アンドリュー・スクリーチ教授によるもので、初めて発表されたのは2006年だった。
スクリーチ教授はモンテーニュ『エセー』の英訳で知られるルネサンス文学の研究家だったが、2018年に亡くなっている。
この英訳本にはピューリッツァー賞受賞者であるアメリカの文芸評論家スティーヴン・グリーンブラットによる序文や、『存在の耐えられない軽さ』で知られる作家ミラン・クンデラによるエッセイも収録される。
グリーンブラットはその序文にこう記している:
16世紀の始め、この『ガルガンチュアとパンタグリュエルの物語』の作者に検閲の手が及ぶことを望んだ権力者たちがいた。
もしそうした権力者たちがその力を使ったならば、ラブレーは投獄され、自分の書いたものを放棄するまで拷問を受け、広場に連行されて、公衆の前で火刑に処せられたであろう。
実際に、彼は権力の追及を逃れるため逃亡したことが何度かあったのである。
しかしラブレーの敵たちはその願いをかなえることはできなかった。
ラブレーは首尾よく対応し、さらには幅広い人たちからの保護を得ることが出来たからである。
保護者には影響力のある学者、聖職者、政治家、さらには王妃マルグリット・ド・ナヴァールやフランス国王本人まで含まれていた。
フランソワ・ラブレーという名前は今でこそ抑制を知らぬユーモアの代名詞のようになっている。
しかし笑いというものは危険な武器であり、ラブレーは比類のない技能によってその武器を振りかざしていたのである。