ダニエル・デフォー『ペストの記録』にも「無症状の感染者」の問題が取り上げられていた

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1665年、ロンドンは疫病の大規模な流行に襲われていた。

 

ロビンソン・クルーソー」の生みの親であるダニエル・デフォーは、そのころのロンドンの様子を『ペストの年の日記』に書き残している。

 

フィクションではなく、詳細な研究に基づいたいわゆるドキュメンタリー小説である。

 

この本には「自己隔離」や「社会的距離」さらには「無症状の感染者」など、今の私たちにとって実に身近なテーマが描かれている。

 

 

 

約60年後に書かれた記録

1665年に大ペストが発生したとき、デフォーはまだ子供だった。

 

その後何十年もたってから書いた本であるが、調査、個人的な記憶、想像力、そしておそらくペスト流行時にロンドンに暮らしていた叔父から聞いた話を織り交ぜて書かれた。

 

現在多くのコメンテーターたちは、もし新型コロナウイルス感染症の流行がソーシャルメディアの流行り出す前であったら、私たちの経験がいかに違ったものになったかを語っている。

 

一方(この本が発表された)1722年にデフォーは、彼が子供のころ(ペストが流行したころ)は新聞がそれほど流通していなかったことを指摘している。

 

彼は一流の物書きとして、医療サービスの整っていない地域社会における腺ペストの影響を詳細に描き出した。

 

デフォーの専門家である米国オーバーン大学のポーラ・バックシャイダー博士によると、彼の文章は優れた調査に基づいており、3世紀以上たった今読んでも生き生きと描かれている作品になっているという。

 

「彼の本が出版されたのは1722年で、その直前にはマルセイユで少なくとも4万人の死者を出した恐ろしい疫病が発生していました。彼は1660年代の教訓をもとに、自分の時代に警鐘を鳴らしていたのです」。

 

発生源についての憶測、自己隔離、そして無症状の感染者

この本は、今年初めに私たちがよく耳にした根本的な問いかけから始まる。

 

「それはイタリアからもたらされたとある人は言った。他の人はカンディア(クレタ島)からもたらされたと言い、他の人はキプロスからもたらされたと言う。しかし問題なのは、それがどこから来たかということではない」とデフォーは書いている。

 

ペストの犠牲者が住んでいた家はドアに赤い十字架を描いて封印されていた。

 

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基本的にその家の家族は外に出られないのだが、策略や暴力、賄賂によって逃げ出すことができた例が書き記されている。

 

さらに、自己隔離の問題が描かれる。

 

「私が頻繁に路上に出ることを知った彼(友人)は、私と家族を閉じ込めて、誰も外に出さないよう熱心に説得した」

 

「しかし私は食料を蓄えていなかったので、すっと屋内に留まっていることは不可能だった」。

 

また、症状の出ていない感染者という、まさに今の私たちを取り巻いている問題もこの作品で描かれているのである。

 

「一人の男が、本当は感染しているかもしれないが、それを知らずにあちこちに出かけ健全な人のように歩き回っていると、何千人もの人々をペストに感染させてしまうかもしれない。しかし感染させた人も、感染した人も、何も知らないのだ」

 

また彼は、17世紀に店主がどのようにして "非接触型" の支払い方法を考案したかを説明している。

 

「肉屋はお金には手をつけず、酢の入った鍋に入れさせていた。買い手は、お釣りを出さず端数の金額でも支払えるように常に小額のお金を持ち歩いていた。彼らは手に香りや香水の瓶を持っていた」。

 

 

 

小説家というよりもジャーナリスト

バックシャイダー博士によると、ほとんどの歴史家たちがデフォーの描いたロンドン大ペストの悪夢のような叙述を史実として受け入れている、という。

 

「彼は小説家というよりもジャーナリストであり、決して誇張はしない。彼は恐怖を与えようとしているのではありません。現実はそのとおり十分に恐ろしいものだったのです。社会学者や疫学者は、彼のことを情報源として引用しています」

 

そして彼女は、この本が現在の危機の中で私たちに語りかける理由の一つは、デフォーが科学を真剣にとらえていたからだと考えている。

 

ルネサンス時代の作家であれば、起こったことは神の仕業だと言ったでしょう。しかしこの本の語り手(HFという名前でしか知られていない)は、ひたすら科学的な方法で観察し記録しているのです」

 

「文章は現代的な感じがしますし、この本は今年の出来事以前にも、私たちに伝えてくれるものがあったのです」。

 

最も苦しんでいるのは労働者階級の人々

語り手HFは裕福な中産階級の馬具職人ということしかわかっていない。

 

デフォーは、この時代には珍しく、最も苦しんでいるのは労働者階級の人々であることを叙述するという社会的良心を示している。

 

「告白しなければならないのは、疫病は主に貧しい人々の間で流行していたこと、しかし貧しい人々は疫病を恐れることはできず、ある種の残忍な勇気を持って仕事に就いていたということだ」

 

「彼らは予防対策をとることはほとんどなく、雇用を得ることができればどんな仕事にでも駆け込んでいたのである」。

 

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