フランス

盗みグセのある学者が売り飛ばしたデカルトの手紙がアメリカの大学図書館で発見されるまで

学問の世界にいる人でない限り「ググリエルモ・リブリ」という人名を言われても、誰のことだか分からない。 このリブリという人物は19世紀のトスカーナの貴族で、今でも一部の人たちには複雑な存在として記憶されているようだ。 伯爵であったリブリは高く評…

シモーヌ・ド・ボーヴォワール 2万通の手紙をつうじて読者と対話を続けた「人生相談の先生」

シモーヌ・ド・ボーヴォワールは、1949年に発表した画期的なエッセイ『第二の性』や、作家仲間であり私的なパートナーでもあったジャン=ポール・サルトルとのオープンな関係で有名になった、いわゆるフェミニストのアイコン的存在だった。 最近、彼女宛に出…

エミール・ゾラの不可解な死 一酸化炭素中毒が直接の原因だが事実上の殺害か?

1902年、おそらく当時もっとも有名だったフランスの作家が、62歳で奇妙な死を遂げた。 9月28日 エミール・ゾラと妻のアレクサンドリーヌは、出先からパリの自宅に戻ってきた。 雨の降る寒い日で、帰宅するとすぐに暖炉に火がつけられた。 窓は閉められ、ドア…

アルベール・カミュの思想「不条理」を理解したい(入門レベル)

アルベール・カミュの小説は比較的読みやすい一方、彼の思想を知る手掛かりとなるはずの『シーシュポスの神話』は難解な哲学エッセイになっていて、そのポイントをつかむのが容易ではない。 こちらの記事(↓)では、そんなカミュの思想をある程度分かりやす…

バルザック『ゴリオ爺さん』 あらすじ

// 時は1819年、場所はパリ。法学生のウージェーヌ・ド・ラスティニャックは、ほかの住人たちとともに下宿の一部屋で暮らしていた。 同じ下宿の住人の一人に「ゴリオ爺さん」と呼ばれている老人がいる。ゴリオ爺さんはかつて大変裕福だったが、その富のほと…

アルベール・カミュ『異邦人』最新英訳版 翻訳者のインタビュー

アルベール・カミュの『異邦人』は今まで4つの英訳が出版されてきた。 1946年 Stuart Gilbert訳 1982年 Joseph Laredo訳 1989年 Matthew Ward訳 2012年 Sandra Smith訳 最新の2012年の英訳をしたサンドラ・スミス氏が、この小説の翻訳について語ったインタビ…

ラブレー『ガルガンチュアとパンタグリュエル』の英訳がギュスターヴ・ドレのイラスト入りで出版

ギュスターヴ・ドレのイラストが施されたフランソワ・ラブレー著『ガルガンチュアとパンタグリュエルの物語』の英訳版が、500冊限定で出版される。 「第一之書」から「第五之書」にいたるすべてが全二巻におさめられるもので、英訳版がドレのイラストととも…

バルザック 債権者に追いかけられながら数多くの傑作を残したリアリズム文学の祖

オノレ・ド・バルザックはその生涯をかけて90を超える作品を書き上げた。 しかし彼は単に書きたい放題書き散らした多作の作家ではなかった。訂正や書き直しなども無数に行っていた形跡が残っている。 こうして書かれた彼の傑作群は、「人間喜劇」として一大…

サルトルはなぜノーベル文学賞を辞退したのか?

ジャン=ポール・サルトルは1964年、ノーベル文学賞を辞退した。 サルトルはスウェーデンのメディアに送ったコメントの中で、辞退はパフォーマンスでもなければ、衝動的に行ったわけでもない、と述べている。彼の長きにわたる主張に沿った行動として辞退した…

ロマン・ロランとタゴール 二人の人道主義者の長きにわたる友情

「過去の戦争の教訓が失われて始めているという思いで、私の心が悲しみの中に入り込んでしまっているとき、あなたの手紙を受け取り、その希望のメッセージによって励まされました」。 これはインドの詩人ラビンドラナート・タゴールが1919年6月24日、フラン…

シモーヌ・ヴェイユ生誕110周年 「行動の哲学者」素顔の一端を知る

// シモーヌ・ヴェイユは1909年2月3日に生まれた。 ヴェイユの仕事は学校の教師であったが、この職業は断続的に続けられた。健康問題や政治活動への参加など、中断の理由はさまざまだった。 ヴェイユはグランゼコールのひとつである「高等師範学校」を卒業し…

アルベール・カミュ 交通事故死、ノーベル文学賞、そして『最初の人間』

// アルベール・カミュの交通事故死について最も胸を刺される事実は、彼のポケットから使われていない列車の切符が発見されたということだ。 カミュは妻や双子の子供たちと一緒にプロヴァンスでクリスマス休暇を過ごした後、パリに戻るところだった。しかし…

アルベール・カミュ『ペスト』 あらすじ

// 『ペスト』はアルジェリアのオランという町が舞台となっている。 ある年の4月、大量のネズミが路上に現れ死んでいくのが発見されるようになる。静かな恐怖が市民たちを襲い、地元新聞は対策の必要を訴え始める。その後しばらくたってから、役所はネズミの…

フローベール『ボヴァリー夫人』 "幻の英訳" とは?

// 『ボヴァリー夫人』は19世紀に書かれた小説であるが、現代のクリエーターたちにも大きな影響を与え続けている。ある批評家は、満たされずにいつも何かを追い求めているキャラクター、エンマ・ボヴァリーを「デスパレートな妻たち」の元祖であると評してい…

フローベール『ボヴァリー夫人』をめぐる5つのエピソード

1. 不倫の描写があまりにも直接的すぎて当時のフランスの読者たちに衝撃を与えた 『ボヴァリー夫人』は、エンマという農家出身の女性が彼女の父親を治療した医師シャルル・ボヴァリーと結婚するが、その後まもなく夫や夫婦での田舎生活に幻滅してしまう様子…

サルトル未完の長編小説『自由への道』 その ”完成” までの道のり

// 1938年4月、ジャン=ポール・サルトルは小説『嘔吐』を発表した。 その3か月後の7月、彼はシモーヌ・ド・ボーヴォワールにこう書き送っている。 私は突然次の小説の主題、全体の構成、題名を発見した。主題は「自由」だ。 “次の小説” のもともとの題は『Lu…

アレクサンドル・デュマ 名声の頂点を象徴した「モンテ・クリスト城」

// 「モンテ・クリスト城」は3階建てのネオルネッサンス様式の建物である。 アレクサンドル・デュマはこの建物を「地上の楽園」と呼んでいた。 1844年、『三銃士』を発表したデュマはその名声の頂点にいた。 そんな彼は、パリから西へ20キロのところにあるサ…

カミュと女優マリア・カザレスの往復書簡集

// 2017年11月、『Correspondence (1944-1959)』が出版された。 作家アルベール・カミュと女優マリア・カザレスとの往復書簡集である。 カミュは1944年からカザレスと愛人関係にあり、二人がやり取りしていた多くの手紙が残されていた。 手紙は1959年が最後…

スタンダール『赤と黒』のモデルとなった実在の人物と事件とは?

// スタンダールの『赤と黒』は、実在する人物とその人物の引き起こした事件をもとに書かれた小説である。 実在する人物とは「アントワーヌ・ベルテ」という男で、彼が『赤と黒』のジュリアン・ソレルのモデルとなった。 ベルテはフランスのグルノーブルで学…

パスカルが『パンセ』に記した「相手を説得する方法」

// ブレーズ・パスカルは、言わずと知れた17世紀のフランスの哲学者・数学者である。 彼の書き残した文章の断片を集めた『パンセ』には、今を生きる私たちにとって役に立つあるコツが示されている。 それは「相手の考えをあらためさせる方法」。 パスカルは…

アルベール・カミュ『異邦人』 あらすじ

// 母の死の知らせを受けたムルソーは養老院に向かい、葬儀に出席する。しかし彼は親が死んだことに対する悲しみをまったく表さない。母親の遺体を見たいかと問われても断り、さらには棺桶の前でタバコを吸いコーヒーを飲み始める。自分の感情を表に出すこと…

アルベール・カミュ『異邦人』についての豆知識

// 『異邦人』はフランスの作家アルベール・カミュによる1942年の小説である。カミュの思想である「不条理」と「実存主義」をテーマとした小説であるとみなされている(カミュ本人は自身の哲学が「実存主義」と呼ばれることには反発している)。 小説の主人…

『星の王子さま』の背景を読み解いて作者サン=テグジュペリについて知ろう

1. 砂漠「君は空から落ちてきたのかい?」 これは星の王子さまがパイロットに向かって投げかける質問のひとつ。じつはこの「空から落ちる」というのは、サン=テグジュペリ本人が経験していたことだった。 23歳の時、彼は初めて墜落事故を起こし、頭蓋骨を骨…

シャルル・ボードレール 没後150年 『悪の華』の詩人のスキャンダラスな人生

もしシャルル・ボードレールがもしこの現代に生きていたら、彼はロックスターになっていただろう。ジャニス・ジョプリンやジミ・ヘンドリックスなどと同じく苦しみの人生を送った天才であるボードレールは、彼の持つ創造の熱意によって身を滅ぼしてしまうは…

グーグル・ドゥードルに登場したヴィクトル・ユーゴーってどんな人?

// 6月30日のグーグル・ドゥードルに登場したヴィクトル・ユーゴーは『レ・ミゼラブル』や『ノートルダム・ド・パリ』の作者として知られているフランスの作家である。 ロマン主義の詩人であり、また劇作家でもあった。 フランス国外では、ユーゴ―は小説の作…

心の健康のためにはやはり読書が一番

// 以下は Germaine Leece というセラピストがイギリスの新聞「The Guardian」に寄せたエッセイの要約。 読書がいかに心の健康に役立つかが述べられていて興味深い。 www.theguardian.com 文学が人を慰め、癒し、心を豊かにしてくれる、ということは、実は紀…

サルトルとカミュ 決別した二人の ”実存主義" 哲学者の主張はどう違ったのか?

ジャン=ポール・サルトルとアルベール・カミュ。20世紀のフランス文学・哲学を代表するこの二人は、カミュの『反抗的人間』の発表を機に主張を対立させ、別々の道に進んで行くことになる。 では彼らの主張は、どのような違いがあったのだろうか。 // Sam Dr…